政策提言/リサーチ Policy&Reserch

2013.10.24

ポリオ根絶活動に関するレポート:
「ポリオ根絶に向けた日本の新たな戦略 -なぜ、今ポリオ根絶なのか?−」

ポリオ根絶に向けた日本の新たな戦略

-なぜ、今ポリオ根絶なのか?−

2013年10月24日

一般社団法人ジェイ・アイ・ジー・エイチ(JIGH)

 

【PDF版はこちら】

  • ・ポリオは1980年に根絶された天然痘に次いで世界で根絶可能な感染症とされている。世界中がその根絶を願い、現在、ポリオの根絶は最終段階を迎えている。ポリオ感染者数は1988年当時に比較して99%削減、ポリオ野生株の流行国はパキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアの3カ国に限定されている。
  • ・世界中がポリオ根絶を願う中、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアという予防接種を打つことが難しいエリアでの、日本の活躍に世界が注目している。

 

 日本は、ポリオの根絶を人類共通の公衆衛生上の地球規模課題として重視しており、ポリオ根絶に向けて大きな貢献をしてきた国の一つである。これまでの主な実績としては、以下のようなものが挙げられる。

  1. 1.2000年に達成された西太平洋地域における根絶に大きく貢献した。
  2. 2.2011年には、ゲイツ財団と連携し、パキスタンのポリオ対策にかかる約50億円の革新的円借款(ローン・コンバージョン)を実施。その結果、2011年には198件あったパキスタンでのポリオ発症数が、2012年には58件まで減少。2013年も9月時点で43件と低い水準を保っている。[1]
  3. 3.2.の革新的円借款を、ポリオ常在国であるナイジェリアにも適用することを検討している。
  4. 4.本年3月には、ナイジェリアに対してUNICEFを通じた無償資金協力をすることを約束した。
  5. 5.本年6月に開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD V)においてアフリカの更なる発展のための支援を表明したことに基づき、本年8月、UNICEFを通じて、ソマリアにおけるポリオ感染拡大防止等に対する緊急対策のため、緊急無償資金協力を実施することに合意している。

 

1. ポリオ根絶の意義

  • ・ポリオ根絶は世界の最貧困層の子どもたちの生活改善につながる

 

ポリオ根絶によって死亡したり、重篤な障害(手足の麻痺)にかかったりする子どもをなくし、健康で社会的経済的活動に携わるチャンスを与えることができる。また、世界中の子どもたちにポリオワクチンを接種することは、子どもたちにその他の保健医療サービスを提供することにもつながる。つまり、ポリオ根絶は世界の最貧困層の子どもたちの生活改善のための大きな一歩となり、その意義は大きい。

 

2. ポリオ根絶運動の進捗・成果

  • ・ポリオは1980年に根絶された天然痘に次いで世界で根絶可能な感染症とされ、現在、ポリオの根絶は最終段階を迎えている。ポリオ感染者数は1988年当時に比較して99%削減、ポリオ野生株の流行国はパキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアの3カ国に限定され、根絶は最終段階を迎えている。

 

図1:世界のポリオ常在国

poliomap

 1988年当時には年間35万人のポリオ患者が発生していたが、同年の第41回世界保健総会で、2000年までにポリオを根絶するという「世界ポリオ根絶イニシアティブ[2](Global Polio Eradication Initiative: GPEI)」が立ち上げられ、国際的取組が強化された結果、2000年には西太平洋地域で、2002年には欧州地域でポリオ根絶[3]が宣言されるに至った。これによって、現在感染者数は1988年当時に比較して99%削減され、根絶は実現可能な目標として捉えられるようになった。

 2011年1月以降、インドではポリオ野生株症例及びポリオウイルスが発見されておらず、インドは常在国を卒業した。現在では、ポリオ野生株の流行国はパキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアの3カ国に限定され、これらの国々におけるポリオ野生株症例は、2012年現在(2012年1—10月)の症例数(166症例)と比較して大幅に減少しており(99症例)、ポリオ根絶は最終段階を迎えている。特に、今年度は3種あるポリオウイルスのうちタイプ3によるポリオの発症は報告されていない。

図2:世界のポリオ発症数(2012-2013)

※赤が常在国、ピンクが非常在国

infected countries

出展:GPEIホームページ http://www.polioeradication.org/Dataandmonitoring/Poliothisweek.aspx

  

 

3. ポリオ根絶に向けた国際社会の取り組みと課題 

  • ・ポリオを世界から完全に根絶しない限り、一度根絶した国でもポリオが再流行する可能性が残っている。実際に本年はソマリアを含むポリオ非常在国における再感染が報告されている。

 

国際社会においては、昨年5月の第65回世界保健機関(WHO)総会にて、ポリオ撲滅を公衆衛生上の緊急事態(a programmatic emergency for global public health)として取組強化を求める決議が採択されたと共に、本年には2018年までにポリオを根絶するための、ポリオ根絶・最終戦略計画(Polio Eradication and Endgame Strategic Plan 2013-2018)が発表された。この計画は、WHO総会での採択を受け、GPEIが各国保健局、保健イニシアティブ、専門家、ドナーその他関係者との協議を踏まえて策定した、2018年までにポリオを撲滅するための包括的且つ持続可能な戦略である。

これは、ポリオ野生株のみならず生ワクチン由来株等に起因する全てのポリオ症例を根絶することに加え、これらの取組みが世界の最貧困層の子どもたちに他の保健医療サービスを提供し得るための素地を構築するためのものであり、4つの柱から成る。即ち①全てのポリオウイルス伝播の感知と遮断、②ワクチン供給システムの強化と経口ワクチンの使用停止、③ポリオウイスの封じ込めと伝播の遮断、④ポリオ根絶のために培われた知見の移転、である。

ポリオウイルスは手を緩めれば容易に再感染するものであり、実際に一度根絶を宣言した国での再流行の事例が散発している。特に本年は非常在国におけるポリオ野生株症例数が急増している(2012年にわずか5症例だったのに対して、2013年現在(2013年1—10月)197症例。うち約9割はソマリアにおいて流行しており、その他に本年流行が確認されている再定着国は、エチオピア、南スーダン、ケニアである。)。

 これまでの国際社会の努力が水泡に帰すことのないよう更なる国際的努力が、今、求められている。

図3:ポリオ対策資金の現状(2013)

Funding

出展:GPEIホームページ http://www.polioeradication.org/Financing.aspx

 

 これからの6ヶ月間(ポリオの流行しにくい冬季)はポリオ根絶のために非常に重要な時期である。これまでポリオ根絶に大きな貢献を果たしてきた日本が、ポリオ根絶に向けた主導的役割を果たすことで、日本の存在感、影響力を示す絶好の機会でもある。こうした状況を鑑み、「世界の子どもたちのためにポリオ根絶を目指す議員連盟」では、11月開催の総会において、ポリオ根絶に向けた日本の貢献について、議論する予定である。 

図4:各国及びその他ドナー・国際機関・民間のポリオ対策支援実績

contributinons

出展:GPEIホームページ http://www.polioeradication.org/Portals/0/Document/Financing/HistoricalContributions.pdf

 

■参考情報

●ポリオとは

 ポリオは、通称小児麻痺と呼ばれる感染症で、感染者の糞便に含まれたポリオウイルスが様々な経路で口に入ることによって感染する病気である。

 感染したポリオウイルスの一部が中枢神経系を侵すと、数日間の風邪のような症状を発症し、急に足や腕が麻痺し動かなくなる。重症の場合は、胸の筋肉や横隔膜まで麻痺するため、呼吸ができなくなり、死亡する危険が生じる。重症となる場合はごく少数だが、症状を発症した場合、患者の約1割が急性の呼吸不全により死亡してしまう。

ポリオウイルスに直接効く治療法はなく、ワクチンによる予防が唯一の対策である。

 

●ポリオ対策の基本的考え方

ポリオ対策は,予防接種とポリオ発見のためのサーベイランスを基本とする。予防接種及び一斉ワクチン投与の実施は,ユニセフを中心にワクチンの入手,搬送,配布のための支援が行われ,サーベイランスはWHOを中心に,AFP(急性弛緩性麻痺)サーベイランスの強化や検査室の整備のための支援が行われている。GPEIでは、ポリオ撲滅のための4つの柱[i]を定めており、これらは、①定期予防接種、②補足的予防接種、③サーベイランス、④ターゲットを絞った予防接種、が包括的に必要であることを国際社会に対して改めて警鐘した。

(了)


[1] http://www.epikp.gov.pk/polio_updates.php

[2] GPEI は、1988 年に各国政府、ビル&メリンダ・ゲイツ財団と共に、世界保健機構(WHO)、国際ロータリー、米国疾病 対策予防センター(CDC)、国連児童基金(UNICEF)らが立上げたイニシアティブである。

[3] ポリオ根絶とは野生株を原因とするポリオ発生件数ゼロの状態が3年間維持されること。


[i]http://www.polioeradication.org/Aboutus/Strategy.aspx#sthash.VGEWPqLW.dpuf