政策提言/リサーチ Policy&Reserch

2015.04.10

【スペシャル対談】小山万里子(ポリオの会代表)×渋谷健司(JIGH代表理事)(3)日本で再びポリオの流行が起こらないために、今、すべきこと

「日本で再びポリオの流行が起こらないために、今、すべきこと」

【小山万里子氏プロフィール】  【渋谷健司プロフィール】

图片5

左:河又松次郎写真集「小児マヒとたたかう母と子」 右:ポリオの会会報

前回までの記事:

スペシャル対談(1)「医師も知らないポリオという病気 」

スペシャル対談(2)「ポリオに苦しむ人たちは日本国内にもいる 」

渋谷:全国の保護者の皆さんや小山さん、協力してくれた小児科医をはじめとした皆さんのご尽力、黒岩知事の決断などがあり、2012年9月にやっと不活化ポリオワクチンの定期接種が始まった。これでやっと、日本国内からは新たなポリオ患者が出てこなくなったということですね。

小山:はい、ただ、まだ注意しなければならないことがあります。日本で経口生ワクチンを接種していた時期の中で、ワクチンの質が悪い年があったんです。具体的には、昭和50-51年(1975-76年)頃です。その時期にポリオワクチンを接種した方の中には、免疫がきちんとついていない方も多いと考えられています。

渋谷:つまり、例えば、ポリオがまだある国に行ったり、海外からポリオウイルスが入ってきた場合には、その方々はポリオになってしまう可能性があると。

小山:はい。ですから、その年代の方々はもう一度不活化ワクチンを接種する必要がありまして、私たちもきちんと呼びかけをしてくださるように国にもお願いをしておりますが、まだ周知が徹底されているとは言えません。

渋谷:そうですね、ほとんどの方がご存じないのではないでしょうか。この件もそうですが、ポリオの会ではポリオやポストポリオ症候群について知ってもらうために、さまざまな活動をされていると思います。ポリオの会の活動について、もう少し詳しく聞かせて下さい。

小山:はい。主な活動は、医療従事者にポリオを知ってもらうための活動です。日本では、ポリオという病気を名前や症状など基本的な知識としてご存知でも、臨床で診られた経験がある先生はもはやほとんどいらっしゃらないですし、ポリオも漠然と片足尖足というイメージしか持たれていません。ポストポリオ症候群についてもあまり知られていないのが現状です。ですから、とくに以前は脳性麻痺とポリオの区別がつかないという状況でした。もちろんポストポリオ症候群についてもご存じないと。そういう状況を変えるための活動です。

渋谷:現在ではいかがでしょうか。

小山:現在でもポリオを診断できる先生は少ないです。ですから、例えば、経口生ワクチンの接種によって感染してしまったお子さんやその親御さんなどで、ポリオと診断されていないケースも多々あるのではないかと思っています。

渋谷:先ほどおっしゃっていたポリオワクチンの質が悪かった世代の方が、今後新たにポリオを発症した場合にも、ポリオだと診断されるまでに時間がかかる、あるいはポリオを診断されないままになってしまう可能性もあるということですね。

小山:はい。でも、私たちが見ればポリオ患者はすぐにわかるんですよ。特徴的な症状が起こりますから。先生方がポリオ患者を実際に知っていれば、脳性麻痺と間違えることはないと思います。ですので、とにかく知って頂く、正しく理解して頂くことが重要だと考えまして、最初は患者同士で集まってポリオに関する記事、どんな小さな記事でも良いから集めて、理解してくださる医療機関に送付するということをやっていました。いまも各方面に会報を送付しています。

渋谷:ポリオは終わった病気ではない、ポストポリオ症候群という病気があり、その患者さんがたくさんいるんだ、ということを地道に医療従事者に伝えていかれているんですね。

小山:その通りです。昔はポストポリオ症候群を診てくださる先生を見つけるのが本当に難しかった。例えば、89歳になって初めて自分がポストポリオ症候群だと分かった方がいらっしゃいます。その方は、89歳で初めてポリオに詳しい先生に受診して、これまで原因も分からず、ずっと苦しんできたと訴えられたということでした。このように、数十年の単位で原因が分からないまま苦しんでいる方もいらっしゃるんです。

渋谷:自分の症状の原因がなんなのか。どういう病気なのかが分からないまま、治療も受けられず、ただ苦しむということが精神的にも一番つらいですね。

小山:最近、ポリオの会に入った17歳の男の子がいます。彼はポリオの生ワクチンの接種を1回だけ受け、その後、他の人から二次感染したんです。一度生ワクチンを接種した後に発症していますから、病院に行ってもポリオの可能性は疑われず、ポリオの検査がされなかったんです。医師が症状でポリオを疑うことがなかった。それで、ずっと原因不明でした。で、やっと私たちのところに来た。

渋谷:そのときのことを覚えていらっしゃいますか。

小山:はい、彼に会った瞬間に「ああ、ポリオだ」と思いました。それで、ポリオを診断できる医師を紹介して、彼はその先生に診察を受けたんです。初めて会った時の彼は本当に誰も自分の事をわからないと言う不信と怒りの表情をしていました。でも、その医師がポリオであると診断結果を告げたとき、本当に表情が変わったそうです。彼が初めて笑ったと。

渋谷:彼も病名がわからず苦しんでいたんですね。

小山:はい。患者も納得したいんです。病名を知りたい。そうすることで生きかたも探れますし、仲間も見つかりますし、精神的な解決法も見つかっていくんだと思います。そのために医療従事者の方には、ぜひポリオのことを知って頂きたいと思います。

图片6

 左:JIGH代表理事 渋谷健司、右:ポリオの会代表 小山万里子氏

渋谷:ありがとうございます。それでは、最後にですが、ポリオの会の今後の活動について、お考えになっていることをお聞かせ頂けますか。

小山:はい、まずは世界からポリオを根絶することです。まず、今まだポリオが流行している地域では、経口生ワクチンでとにかく流行を押さえる。そして、生ワクチンで流行がおさまったところでは、不活化ワクチンへの切り替えを行い、ワクチン由来のポリオ患者も出さないようにして、完全にポリオを根絶することです。そうしないと、国境を超えた人の移動が盛んな現在においては、いつまた流行が始まってもおかしくありません。

渋谷:おっしゃる通りですね。日本も決して安全ではない。昨年日本でも症例が確認されたデング熱のように、もうなくなったと思っていた病気がまた日本に入ってくるというのは、グローバル化の進んだ世界では、十分に考えられるケースです。それを防ぐためにも、世界から完全に根絶しなければならない。

小山:はい。あとは、自分たちポストポリオ症候群の情報やデータを日本の医療従事者にためていくことです。

渋谷:なるほど。

小山:私たちは日本でポリオが流行していたときの患者で、それが40−50年たってポストポリオ症候群を発症しました。ということは、いまでもポリオが流行している、あるいは、最近まで流行していたアジアやアフリカなどの地域では、40-50年後にポストポリオ症候群を発症する人たちがたくさん出てくるわけです。そういった人たちに私たちと同じ思いをさせないためには、医療従事者に正しく診断して治療してもらう必要がある。そのために、自分たちのデータを残していきたいと思っています。

渋谷:そうですね、日本で最近ポリオを発症した子どもたちのためにも40-50年後の医療従事者がポリオに関する正しい知識と持っていなければなりません。そのために、ポストポリオ症候群の患者さんに関するデータを今からしっかり蓄積していくことが必要不可欠ですね。具体的にはどういったことを行っていらっしゃるのでしょうか。

小山:例えば、いま、理学療法士の学生に対して、私たちの体を実際に触ってもらって模擬診断に協力しています。ポリオやポストポリオ症候群は症状が特徴的ですので、一度、触ったことがあるのとないのとでは、ポリオだと気づくかどうかに大きな影響があります。1年に50人の学生にやってもらえば、10年で500人のポリオ患者を触ったことのある療法士が世の中に出るわけです。実はすでに少しずつ効果が出始めていまして、理学療法士さんがポリオではないかと気づいて、ポリオの会が紹介されるケースが出てきたんです。

渋谷:それは、素晴らしいですね。

小山:ありがとうございます。その他には、海外ポリオ患者さんとの交流・支援ということも行っています。最近では、Facebookなどで海外の患者の人たちと交流しています。ポリオやポストポリオ症候群の患者には、杖や装具、車いすなども必要です。ですから、私たちが使わなくなったものをJICAなどに提供したりもしています。

渋谷:いずれも大変重要な活動ですね。私たちJIGHも世界のポリオ根絶活動を政府や国際機関、民間と協力しながら進めています。ともに、ポリオの根絶、ポリオやポストポリオ症候群の認知・理解の向上に向けて、尽力していければと思っております。

小山:はい、よろしくお願い致します。

渋谷:それでは、最後に一言頂けますでしょうか。

小山:これまでお話してきましたように、日本国内にもポリオやポストポリオ症候群に苦しむ人たちが多くいます。医療従事者の方々には「ポリオは日本ではもう終わった病気」とは思わずに、ポリオについてもっと知って頂きたいと思っています。

そして、医療従事者以外の方々にも、世界からポリオを根絶する、ポリオで苦しむ人をもう出さないようにする、ということに関心を持って頂ければと思います。ポリオが根絶されない限り、日本も決してポリオと無関係ではありません。日本においては、1960年の経口生ワクチンの緊急輸入も2012年の不活化ワクチン導入も、政府が国民の声に押されて実現されたという歴史があります。国民の声で、国や国際機関などを動かすことが、ポリオの根絶につながるのではないかと思っています。

渋谷:本日は貴重なお話を本当にありがとうございました。