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2014.08.21

【スペシャル対談】山本栄二氏(元・在トロント総領事館 総領事、現・在東ティモール大使館 特命全権大使) ×金森サヤ子(3)日本人は、文化的違いを越えて、人を巻き込む能力を鍛えるべき

「日本人は、文化的違いを越えて、人を巻き込む能力を鍛えるべき」

【山本栄二氏プロフィール】  【金森サヤ子プロフィール】

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JIGH調査事業本部  部長/チーフ・ヘルス・オフィサー 金森サヤ子

前回までの記事:

スペシャル対談(1)「グローバルヘルスと外交の密接な関係」

スペシャル対談(2)「世界が求める日本の経験知」

K:日本には、保健医療分野において国際社会で主導権をとって、革新的なことを果たす使命があるというお話でしたが、その使命を日本が果たしていくためにはどうすれば良いのでしょうか。

Y:もちろん大きな一つの要素として外交がありますね。でも、外交だけが走っていてもだめなんです。官庁で言えば、財務省や、他に医療分野で言えば厚生労働省ともタッグを組まなければなりませんし、あとは現場の医療従事者の方や、企業やNGO/NPOなんかも一緒になってやると。日本が主導権をとって、革新的なことをやるんだというビジョンを共有して、連携することが絶対に必要です。特に最近は民間セクターの力が必要不可欠になっています。私が世界基金にいたときに、一つ、日本人として誇らしかった経験がありまして。

K:なんですか。

Y:マラリア対策をやっていたときのことなんですが、蚊帳をたくさん配るんですよ。で、その蚊帳が日本の住友化学の蚊帳だった。そして、皆がその蚊帳の効果が素晴らしいと行って、日本はすごいと褒めてくださったんですよ。

K:ああ、あれですね。殺虫剤がしみ込んでいる蚊帳ですね。

Y:はい、そうです。そのときに嬉しく、誇らしかったと同時に、企業などの民間セクターのイノベーションとの連携が重要だと強く感じました。やはり、日本は物作りに強みを持っていますし、適切な価格で本当に役立つようなものを途上国の人たち向けに作って、それを官セクターの力も使ってスケールアップしていくと。そういうことができれば、日本にとっても途上国にとっても素晴らしい結果になる。官民がうまく連携することで、日本の強みが最大化されると思います。

K:確かに、住友化学さんの蚊帳は商品自体もすごいですし、さらにすごいのは、単にそれを売るだけではなくて、タンザニアとかアフリカでも工場を作って、現地の雇用も生み出していたところですね。

Y:そうですね。

K:いまのお話を聞いていて、思い出したことがあります。例えば、革新的で素晴らしい製品を持っている民間企業がいたとして、その製品のビジネスをスケールアップしていくとなったときには、やはりいろんな仲間を巻き込んで連携していく必要がありますよね。でも、日本の国としての傾向としてそういった連携があまり上手くないのではないかと思っているんです。

Y:なぜそう思われます?

K:例えば、私が外務省の職員時代の経験なのですが、日本がODAである国に行おうとしていた支援を、他の援助国とか国際機関がやっている支援とうまく組み合わせて、より効率的な支援にしましょうという話になりました。で、他の援助国は比較的上手く棲み分けを決めてスピーディーに連携したんです。でも、日本は「それは一度本省に確認をとって・・」となって、結局タイムリーな連携ができなかった。世界基金と逆で、依然意思決定機能が中央に集権しているため、決断が遅いこともある、という問題があった。思いきってお金をつけるということがない。だから何かを始めるのに機を逸することもある。

Y:ああ、なるほど。

K:あと、先ほどSickKids Hospitalで、ガーナの栄養プロジェクトやっていますとおっしゃっていましたが、実は味の素さんも「ガーナ栄養改善プロジェクト」といってガーナで離乳食の栄養バランスを改善・強化するサプリメントのパイロット・スタディをやってらっしゃるんですよ。で、それを始めるにあたって、日本企業なのでどうせならJICAや日本のファンドと一緒にオールジャパンとしてやっていきたいという話で、だいぶ色々なところでお話をされたようなんです。でも、結果的に日本のファンドとはなかなか話がうまく進まなくなって、結局、海外の機関と先に事業提携をされたみたいなんですよ。確かUSAIDS(アメリカ合衆国国際開発庁)だったと思うんですが。

Y:そうですか。

K:こういう事例がありまして、日本は迅速な意思決定が求められたり、他国とか国際機関とか民間企業とかと調整して連携したりする場面で、少し柔軟性に乏しいのではないかと思っているんです。

Y:なるほど。金森さんが、そう感じられることは理解できます。私にも思い当たる節がありますしね。ただ、一方で、国民の税金なわけですから、説明責任を果たすということは非常に重要です。どうなるか分からないことにリスクをとって投資するということは難しい。

K:それは大変良く理解できます。ただ、一方で、このままでは結局日本だけ取り残されてしまうのではないかという危機意識もあります。この課題をどうやって解決していけば良いのか。

Y:そうですね。もしかしたら、日本ももう少し人のフンドシで相撲をとることを考えたほうがいいのかもしれない。

K:他人のフンドシ、ですか?

Y:ええ。例えば、日本は「こういうのやりませんか?」とアイデアをどんどん出すんです。で、そのアイデアを他にも問いかけて「いいね、やろう」となれば、自分は10分の1だけ金を出す。で、残りの10分の9は他に出させて、でも、それの音頭をとっているのは日本であるとアピールする。アイデアを出して提案しているのは日本なんだけど、実際にやるときには皆を巻き込んでやる。でもリーダーは日本。そういうことをやらなきゃいけない時代がこれから来るのではないでしょうか。

K:おっしゃる通りだと思います。特に、それこそ先程おっしゃっていた国民皆保険とか高齢者医療とか、本当に世界のどこの国もまだ経験していないという意味でも、保健医療は日本にものすごく比較優位があって、世界中が日本のそういう知見、ソフトパワーをものすごく求めています。そういった強みを活かすためにも、日本が主導権を取りつつも、他の国と連携しながらうまく見せていくしたたかさっていうのは、今後国際的な場面で競争していく、生き残っていくためにものすごく大事なことなのかもしれないですね。

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左:JIGH調査事業本部  部長/チーフ・ヘルス・オフィサー 金森サヤ子、右:山本栄二氏(元・在トロント総領事館 総領事、現・在東ティモール大使館 特命全権大使)

Y:日本はこれまで、我々は自分たちの世界でコツコツと地道に現場の人とやるんだ、という姿勢が強かった。それはそれで尊いことだし、日本らしくていいと思うんですよ。現場主義でしっかり現地の人と一緒になってやっていく。欧米みたいに上から全部ばらまいちゃって指示して終わりじゃなくて、現地を育てながらやる。それは日本のすごいところだと思います。だから、そういうところも大事にしつつ、一方で、やはり要所要所ではうまく主導権をとって他の国を巻き込み、他の国にも金をださせて進めていくことが必要になってくると思います。

K:そうですね。日本には実績があるのに、どうしてこれまで日本にそういうことができていないのかと考えたときに、一つ思うことがあります。

Y:なんでしょうか。

K:証拠を残すことをしなかったからだと思うんです。

Y:証拠?データということですか?

K:そうです、日本に実績があるという証拠、つまり、データを日本はこれまできちんととってこなかった。先ほどおっしゃったように、日本はODAでお金をばらまくだけでなく、現地の人を育成して、結果的にそれが大きな成果につながってきたと思うんです。でも、世界にはそういう認識があまりないですよね。

Y:そうですね。現地で直接援助を受けた人は知っているでしょうけど、他の国や直接援助を受けていない世代の人は、ほとんど知らないと思います。

K:これが、援助主体が欧米の国だったらもう少し違っていたと思うんです。彼らはとても見せ方がうまいですよね。自分たちの援助によって、どれだけの効果があったのかをきちんと統計をとって、データにして、文書化して、それを証拠に世界にアピールしてくる。現場の実感としてそこまでの成果でなくても、きちんと数字があれば、公式にはそれだけの効果があったことになります。

Y:日本はあまり得意じゃないですね、そういうこと(苦笑)。言葉の問題から始まり、文化的にも主張するのが得意でないですし、なかなかできない。巧いのはイギリスとかですよね。

K:そうなんですよ。さらに、そうしたデータがあれば、どういうやり方でやれば効果的な援助ができるか、という仮説をもって説得力のある戦略をつくりあげることもできます。で、戦略をつくった国が司令塔になって、他の国を主導して次のプロジェクトを動かしていく。

Y:なるほど。

K:日本ができていなかったのは、まさにこういうことだと思います。成果をデータで検証するということに重きを置いてこなかったので、結果的に文化的な違いを越えて誰もが納得できるような戦略を描けない。これが、日本が世界の主導権をとってこられなかった一つの要因だと思うんです。

Y:おっしゃる通りかもしれませんね。いまの日本には、そういうデータを分析して、それをもとに戦略を描いて、文化的な違いのある中でリーダーシップを発揮できる人材はほとんどいないかもしれない。

K:そうですね。

Y:でも、だからこそ、今後私たちが育てていかなければいけないんですよ。若い人を国際機関に派遣するとか、国際NGOに行って修行させるとかして、どうやって文化的な違いを越えて人を納得させて、主導権をとっていくのかを学ばせる。すでにやっているところもあるかと思いますが、政府がしっかりと音頭を取って推進していくことが大事だと思います。

K:そういった人材にはどのような特性が必要だと思われますか。

Y:もちろんコミュニケーションというのは最低限あって、あと、企画力ね。でも、それは、実は日本人は結構あるんじゃないかと感じています。そこから先、日本人に最も必要なのは、様々な国の、様々なバックグラウンドを持つ人達とチームを組んで、その中でうまくリーダーシップをとる能力ですね。で、そのために必要なのはおっしゃる通り、データを集め分析し、誰でも納得できるロジックをもった戦略を描ける能力なのかもしれません。

K:ええ。ただ、そういう文化の違いに関係なく納得できるロジックを組み立てる能力って、皆が同じような文化的背景をもった日本という国で普通に生活していてはなかなか育たない気もしますね。

Y:ええ、ですから、その能力を育てるためには、たぶん場数を踏ませるしかないと思っています。そんな能力をつけようと思って、頭で考えてなんとかさせるんじゃなくて、ただポンとそういう多様な文化的背景をもった人たちばかりの所に送り込むわけですよ。国際機関とか国際NGOとか。それで、その中のチームで何かをつくっていくんだという意識を育てていくというか。

で、評価する人もそういう現場を見る。その人材がチームの中で何をやろうとしているのか、何をやっているのかをきちんと観察するんです。みんなの話をふんふんと聞いて、リーダーの指示通りになにかをやっているだけではいけないわけです。自分が唯一のリーダーになる必要はないのですが、複数のリーダーと一緒になって、采配する側に回っていく。リーダーシップをとれるようになる。非常に抽象的で申し訳ないのですが、そういう経験が必要だと思います。

K:いえ、よく分かります。本当にその通りだと思います。

Y:日本は保健医療分野においてしっかりとした実績と優位性を持っていますので、データをもって世界の人々を納得させ、戦略を描けるリーダーの素養、ある意味でのしたたかさですね。これを持った人材が育っていけば、日本が世界の主導権をとりつつ、他の国を巻き込んで、効率的に大きな成果をあげていくことはきっと可能だと思います。そうすれば、それが日本の実績として評価され、また主導権を握りやすくなる、という好循環が生まれるはずです。

K:保健医療分野で国際的な貢献をすることが、他の分野でもプラスに働くでしょうか。

Y:もちろんそうです。国や人種・宗教などに関わらず、命や健康は誰にとっても大切なものですから、保健医療というのは、万国共通の課題といえます。保健医療での国際貢献をすれば、その国の国際社会における信頼性、親近感はとても高くなりますよ。自分たちの命や健康を守ってくれた国に対して感謝や敬意の念が生まれるのは人間としてごく自然な反応ですから、その国で日本人が活動しやすくなったり、他の分野でも協力が得られたりと大変なメリットが生まれると思います。

K:ありがとうございます。本日は山本栄二さんに「外交とグローバル・ヘルス」をテーマにお話をうかがいました。山本さん、貴重なお話を本当にありがとうございました。