政策提言/リサーチ Policy&Reserch

2014.08.15

【スペシャル対談】山本栄二氏(元・在トロント総領事館 総領事、現・在東ティモール大使館 特命全権大使) ×金森サヤ子(1)グローバルヘルスと外交の密接な関係

「グローバルヘルスと外交の密接な関係」

【山本栄二氏プロフィール】  【金森サヤ子プロフィール】

yamamoto1

山本栄二氏(元・在トロント総領事館 総領事、現・在東ティモール大使館 特命全権大使)

金森(以下、K):本日は在トロント総領事館 総領事(インタビュー当時。2014年7月より在東ティモール大使館 特命全権大使)の山本栄二さんにお話をうかがいます。どうぞよろしくお願いいたします。

山本様(以下、Y):よろしくお願いします。

K:最初に少しこれまでのご経歴についておうかがいできますでしょうか。外務省の国際協力局 参事官さらに世界基金日本代表理事も務めていらっしゃいましたが、外務省に入省されてから他にもさまざまな役職を歴任されてきたと思います。

Y:はい。私は、外務省に入り、大きく分けて二つの分野で仕事をしてきました。一つは、アジアです。在カンボジア大使館参事官、在国連代表部公使在韓国大使館公使などを務めました。若いときは経済協力、特にODA関連の仕事をASEANに対して行っていました。もう一つは、国連関連の仕事です。国連代表部には二回勤務し、一回目は安保理を担当、二回目は人道・人権を担当しました。また、APEC(アジア太平洋経済協力)やG8などにも、保健医療も含めて関わっていました。

K:これまでの業務内容と総領事のお仕事の内容は、少し毛色が異なるのかと思いますが、総領事としてのお仕事についても教えて頂けますか。

Y:そうですね。総領事の仕事は大きく4つあります。一つ目は、邦人保護。これは総領事館の一つの大きな使命です。今の内閣も人間の、邦人の生命の安全に重点をおいています。二つ目は、日本の経済支援や企業支援です。日本が元気になるためには、出来ることは何でも挑戦していこうと考えています。三つ目は、広報。日本のいろいろな立場をきちんと隣国の関係者に説明をすることは非常に重要ですので、広報活動は積極的に行っています。そして最後は、日本とカナダあるいはトロント州との様々な交流を支え、促進していくことです。

K:3つ目に出た広報活動の一つとして、最近トロント大学で講義をされて、アベノミクスについてお話されたと伺いました。現在の政権では、成長戦略の重要分野一つとして医療を掲げていますね。日本国内では、一般的には保健医療関係を扱う省庁といえば厚生労働省という意識が強いと思いますが、政府の方針もあり、最近では経済産業省や内閣府など、厚生労働省以外の省庁が保健医療分野に関わってきています。外務省はどうなのでしょうか。

Y:外務省はODA(政府開発援助)において、70年代から保健医療分野に取り組んできています。ODAで日本は様々な援助を行っていまして、最も多いのはインフラ整備ですが、国や人種・宗教などに関わらず、命や健康は誰にとっても大切なものですから、保健医療はODAの一分野として長きにわたって取り組まれてきました。90年代までは、そういうODAの一分野という感じで扱われていましたが、最近になって変化がでてきました。

K:どういった変化でしょうか。

Y:保健医療が単なる援助の一分野ということ以上の、日本の政策や外交にとって重要な課題だと認識されるようになってきたんです。例えば、2000年のG8九州・沖縄サミットで、日本は感染症対策の重要性を国際的に喚起しました。これは、保健医療分野において、日本が世界に影響力を行使して、世界のリーダーシップをとっていこうという姿勢のあらわれでした。それまでは、保健医療分野における国際貢献というと、医療従事者の現場での活動などが中心でしたが、政策・外交の柱の一つとして保健医療が捉えられるようになったのが、非常に大きな進化だと思います。

sayako

JIGH調査事業本部  部長/チーフ・ヘルス・オフィサー 金森サヤ子

K:なるほど。カナダにいらっしゃっても、外交と保健医療の関係のようなものを感じられますか?

Y:そうですね。カナダを見ていると、外交において医療というソフトパワーをうまく打ち出しているなと感じますね。2010年にカナダのムスコカで行われたG8ムスコカ・サミット(主要8カ国首脳会議)において、母子保健に焦点があてられました。そこで母子保健に対する支援を強化する「ムスコカ・イニシアティブ」がG8によって打ち出され、現在でも支援が行われているわけです。金森さんも先ほど訪問されましたけれども、カナダにはSickKids Hospitalという世界三大小児病院がありますし、インスリンを発見したフレデリック・バンティング博士もトロント大学出身のノーベル生理学・医学賞受賞者で、トロント大学はノーベル医学賞受賞者も何人も輩出しています。このようにカナダ、特にトロントは医療に比較優位をもった国であり、都市でして、そういった強みがあるために、外交でも保健医療の重要性を打ち出している。非常にうまいと思います。

K:確かに、そうですね。日本はODA全体の2.8%(2008年時点)を保健分野に投資[1]していて、先程おっしゃっていたインフラは35%ぐらいです。カナダはどうなんでしょうか。

Y:保健医療分野には4.3%(2008年時点)ぐらいですね。

K:なるほど、OECD全体の平均でも約15%ですから、カナダが特に保健分野に多く出しているかというとそうではないですし、日本に比べてそんなに金額が違うかと言えばそこまでではない。そう考えるとムスコカ・イニシアティブでの打ち出し方は本当にうまいですね。

Y:そうなんです。そして、カナダの強いところは、そういった外交の一部としての保健医療の打ち出し方に加えて、実際の現場、つまり、病院や大学、研究機関などでも積極的に海外と関わっていることです。先ほど見て頂いたSickKids Hospitalでも、世界各国から研修医を受け入れています。もちろん、日本からの医師もいます。途上国からも来ています。そういう国際交流を現場レベルでもやっているんですよ。それに、病院の中の一部門にグローバルヘルスの部署もあります。50人ぐらいのスタッフがいて、そこで国際的なやりとりを専門に行なっているわけです。

K:それはすごいですね。

Y:はい。カナダは外交政策として医療をうまく活用しつつ、現場レベルでも国際的な交流を行っている。政策レベルと現場レベル、その両輪でグローバルヘルスを行っているところが非常に強いんです。ここのところを日本が学べたら良いのではないかと思っています。

K:おっしゃる通りですね。SickKids Hospitalで、世界で最初の小児科医はカナダ人だったという話をされていました。そういう意味で、母子保健はカナダ発の保健医療分野と言えるのかもしれませんが、日本発の保健医療分野というのもすごくたくさんありますよね。

Y:それはもう本当にたくさんあると思います。例えば、日本は、天然痘の根絶やポリオの根絶活動においても大きな役割を果たしています。1980年に根絶された天然痘では、最後の症例が報告された1978年に天然痘根絶プロジェクトを率いていたのは日本人医師でしたし、全世界での撲滅まであと一歩のポリオも、西太平洋地域での撲滅活動(2000年達成)の指揮を執っていたのも日本人医師でした。

K:山本さんのいらっしゃった世界基金(世界エイズ・結核・マラリア基金)も日本が設立に大きく関わっています。

Y:はい、その通りです。先ほども出た2000年のG8九州・沖縄サミットで、日本が感染症対策の重要性を国際的に喚起して、世界基金が設立されたんです。世界基金の取り組みは、三大感染症とその脅威に苦しむ多くの人々を救っていますよ。

K:そう考えると、これまでの歴史において、保健医療分野における日本の貢献は非常に大きいですね。でも、そのことを上手く打ち出せていない。

Y:ええ。本来はもっと保健医療分野での強みを打ち出して、世界で主導権を取っていけるはずだと思っています。G8九州・沖縄サミットにおいて、当時の森総理が感染症対策のイニシアチブをとられて、それが今でも続いています。感染症分野で、日本は本当に大きな貢献をしてきました。ですから、そういった良い伝統を途切れさせずに、世界の保健医療分野で主導権をとり続けるべきだと思いますね。


[1] 2012年には、ODA全体の約6%を保健分野に投資。

 

次回、スペシャル対談(2)「世界が求める日本の経験知」に続く