政策提言/リサーチ Policy&Reserch

2014.07.02

【スペシャル対談】那須良(経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課
課長補佐)× 金森サヤ子(3)「日本人が気づいていない日本の医療の価値」

日本人が気づいていない日本の医療の価値

前回までの記事:スペシャル対談(2)「日本の医療 海外進出の”勝ちパターン”」

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済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課
課長補佐 那須良氏

那須良氏プロフィール】  【金森サヤ子プロフィール】

K:ここまで日本の医療の海外展開、つまり、アウトバウンドを中心にお話を伺ってきましたので、次はインバウンドに関してお話をうかがいたいと思います。世界の潮流としては医療ツーリズムがとても盛り上がっていますね。特にアジア諸国が官民一体となって外国人患者の受け入れに積極的ですが、日本の現状はどういったものなのでしょうか。

N: おっしゃる通り、医療ツーリズムは世界的な競争が激しく、世界中で患者の取り合いが起こっています。既に医療ツーリズムをかなり成功させている国がある状況で、日本は同じ土俵で戦ってもなかなか簡単には勝てないと思っています。

K:どうしてそう思われるのでしょうか。

N:そうですね、まず言語的な問題がありますね。医師は英語ができたとしても、受付から看護から会計からアフターフォローに至るまで一連の医療サービス全体で見ると、まだまだ改善の余地があると思います。あとは、受け入れ体制の問題もあります。海外患者受入に積極的な国では、海外患者を日常的に受け入れる窓口が設置されていて、入院中の食事なども含めて海外患者の様々な要望にきめ細やかに対応できる体制ができているのが一般的です。また、地理的に言っても、今後患者数が伸びてくるASEAN諸国から日本は少し遠い。タイやシンガポールなど医療ツーリズムが進んでいる国がもっと近くにありますので、どうしても日本までわざわざ行って治療を受けなくても必要な医療が受けられてしまう現状がある。また、マレーシアやシンガポールなどはリゾートと組み合わせて大々的な受入を実施しているので、観光資源という意味でも競争が激しい状況です。

K:なかなか厳しいですね。

N:はい。ただ、方法はあると思います。

K:ぜひお伺いしたいです。

N:いま日本に海外からの患者さんがどれぐらい来ているのかという、しっかりした統計がないんですが、様々な医療機関へのヒアリングなどのから推計すると、海外から治療目的で来日する患者さんは年間約1~3万人、受入れ病院は数十程度ではないかと推察されます。国で言いますと、中国が37%ぐらい、ロシアが15%ぐらい、後はインド・韓国・インドネシアなどです。目的としては、がん治療が1/3で1位、その次が検診ですね。

K:検診ですか。

N:はい。中国だと保険とセットになった健診ツアーなどが売られていますね。通常の保険保障に加えて、1年に1回日本での検診ツアーに行けるという保険のプランがあるみたいです。もちろん海外でも診断はあるんですが、初期の小さながんだと見つけられないとかそういう問題があって、日本の診断のニーズは高いです。

K:なるほど。

N:そういった現状を踏まえると、日本に治療を受けにくる人のニーズはがん治療と早期診断といったところになりますので、そこを日本の強みとして打ち出すことで道が開けるのではないかと思っています。もちろん、それ以外の可能性を求めていっても良いんですが、これなら日本だよね、という分野をつくって、わざわざ日本に来る意味を打ち出さないとなかなか競争の厳しいこの世界で外国には簡単には勝てない。

K:差別化戦略が必要だということですね。

N:はい。ただただ「日本の病院で治療をしてはどうですか?」、とアジアの人たちに売り込みをかけてもピン来ませんよね。日本人でも、例えば、九州に住んでいる人が、東京のあの病院で治療したい、と思えるようなきちんとした強みがある病院でないと、海外の人もわざわざ日本の病院に来たいと思わないと思うんです。ですから、強みが何かをはっきりさせて「これなら日本」とか「これなら日本の●●病院」というブランドをしっかりと確立していかなければならないと思います。

K:そうですね。香港やシンガポールの病院の様子や患者さんの動向をみても、どこの病院というレイヤーではなく、あの先生に治療して欲しい、というところが病院選びの決定打になっていると感じます。そういう意味で、外国人の方に、例えば、「日本のがん治療が優れている」という漠然としたイメージがあった先に、日本のここの病院がすごいんだ、とか、日本のこの先生がすごいらしい、というところまでのブランディングはあるんでしょうか。

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JIGH調査事業本部  部長/チーフ・ヘルス・オフィサー 金森サヤ子

N:いわゆるスーパードクターですね。もちろん日本国内にもたくさんいらっしゃると思いますが、我々が活動するときによく一緒に協力してくださるのは神戸国際フロンティアセンターの理事長の田中紘一先生です。田中先生は生体肝移植がご専門ですが、本当に「世界のTANAKA」なので、田中先生に治療して欲しいという人がアジアのみならず、中東とかアフリカにもいらっしゃって、先生も世界を飛び回って各地で手術をされていますし、「Dr. Tanakaに手術してもらえるのなら、どこにでも行く」という人はいらっしゃいますよ。あと、大腸内視鏡で有名な昭和大学の工藤進英教授もよく協力をいただいている世界的にも有名な医師です。こうした先生方がいらっしゃることで、日本にこんなスーパードクターがいるんだ、ということで、日本のブランディングにもつながっています。

K:なるほど。そういった素晴らしい技術をお持ちの先生は日本にもたくさんいらっしゃると思うんですが、アジアの特徴として、単なる技術だけでない人柄に対する信頼とか、アジア独特の文化・価値観である「共感」みたいなものがものすごく重要ですよね。医療技術だけでなく、人柄とか相性とか、病院の雰囲気とか、周辺要素が決定打になる。でも、そういうことって実際に来て、その人に会ってみないとわからないものなので、そのエントリーポイントをいかに拡げられるかが、日本に来たいと思わせるための非常に重要な要素になるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

N:おっしゃる通りだと思います。日本に来て実際に治療を受けた人が「日本の医療は素晴らしい」って賞賛するポイントって、日本では当たり前になっていて実は気づかないところだったりするんですよね。例えば、先日インドに行ったときに現地の方が「日本の歯医者の治療を受けたらすごかった、全然痛みがないんだ!」みたいなことを言うんです。そういう日本では当たり前なことが、海外からの目で見れば、新たな強みを持つ価値として見出されることはよくあります。

K:わかります。先日も、シンガポールの医師が、日本の手術ポートフォリオというか、すべて手順が決まっていて、その手順通りに進行するのが素晴らしいと感激していました。開腹したときにガーゼを残したまま閉めたりしないように、ガーゼの数を看護師がいちいち数えるとか、そういう手術の手順があまりにうまくできていることに感動していたんです。

N:なるほど、面白いですね。そういう事例は、他にもたくさんありますよ。例えば、日本では「3分間診療」なんて言うと、親身になって見てくれないことの代名詞のように言われていますが、ポジティブな捉え方をすると、3分で診察して、適切な治療をして、その後、薬を出して、会計までして、家に帰せるっていう効率的な院内オペレーションとも言えます。これはアメリカでも欧州でもなかなかできない。ですから、患者がものすごく多い中国の病院などから、効率的に患者情報を管理して、オペレーションをまわす日本式の仕組みを導入できないかと問い合わせがあったりもしました。他にも、院内感染予防のための空調システムとか、看護師を含めたチーム医療の仕組みとか、治療の部分だけでないトータルの医療サービスって日本では当たり前のことが、海外から見るととても価値があるとみられることもよくあります。それをどういう形で訴求していけば、現地にきちんと売れるのかっていうのは模索中ですが、そのような切り口は本当にたくさんあります。

K:治療行為そのもの以外の周辺領域に可能性が大きく拡がっていますね。

N:そうです。医師レベルで言いますと、どこの新興国であっても、中核病院の中核医師であれば、みんなだいたい欧米に留学したりしているので正直医療水準だけで見ると、それほど大きな違いはなかったりするんです。でも、それ以外のところはレベルが大きく違っていて、実はその部分が医療の質を支えていることもよくあるように思います。

ただ、そこってなかなかお金に換算しにくいですし、そこが優れていることによって、他と比べてどれぐらい優位に立てるのかを可視化するのが難しいですが、優れた医療の価値があることは間違いないですから、日本の医療をブランド化していく上で、積極的に訴求していきたいと思います。

スペシャル対談(4)「世界で勝つために、日本の医療が変えていかなければならないこと」