政策提言/リサーチ Policy&Reserch

2014.07.04

【スペシャル対談】那須良(経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課
課長補佐)× 金森サヤ子(4)「世界で勝つために、日本の医療が変えていかなければならないこと」

世界で勝つために、
日本の医療が変えていかなければならないこと

那須良氏プロフィール】  【金森サヤ子プロフィール】

 名称未設定

JIGH調査事業本部  部長/チーフ・ヘルス・オフィサー 金森サヤ子

前回までの記事:スペシャル対談(3)「日本人が気づいていない日本の医療の価値」

K:ありがとうございます、インバウンドの現状について大変よく理解できました。次に、外国人患者受入の環境整備という点についておうかがいします。環境整備のポイントとしては、一つ言語があると思うのですが、その他になにがあるでしょうか。

N:そうですね、いくつか課題があると思っています。まずは、そもそも日本の医療について知られていないので、海外で治療を受けたいと思った患者さんの選択肢の一つにきちんと日本の病院を入れてもらうように、しっかりとプロモーションをしていくという課題はあります。これは、マス向けにCMをたくさんうつとかそういうことではなくて、現地の病院と組んで、現地で治療できない患者さんを日本に送り出してくれる送り出し機関をつくっていこうという話をしています。自分の住んでいる地域では治療ができない患者さんに対して、日本のあそこならできますよ、と言って紹介してくれるような体制づくりをしていく必要があると思っています。

K:なるほど、現地の病院におけるプロモーションですね。他にはどうでしょうか。

N:あと、シンガポールとか医療ツーリズムが多いところでは、行けば海外患者向けの常駐の窓口があって、通訳やコーディネーターがいて「いらっしゃいませ、どうぞこちらへ。こちらで全部お任せください。」という感じで、ワンストップ体制ができているんですが、日本ではワンストップの体制ができていないんです。来るとなったら、じゃあ別でコーディネーターとか医療通訳を手配して、その人が病院にわざわざやってきて、それが治療費にオンされてという形なので、煩雑というかユーザーフレンドリーではないという課題があります。ですので、日本でやると治療費のほかに色々かかって高いぞ、という印象になってしまうんですね。患者さんがたくさん来るようになれば、通訳やコーディネーターが病院に常駐することもできるんですが、まだそれができるだけの患者数にはなっていない。ですから、そこをコストと感じさせないようなうまい仕組みを考えないと思っています。

K:実際は海外と比べてそんなに高くないんですか?

N:そうですね、これは保険外の自由診療の世界ですから、価格は自由に設定できるんですが、色々なアンケートとかの結果、通訳費とかいろんなコストが病院側にかかる分があるので、診療報酬のおおむね2倍程度というのが平均的な治療費になっています。これは、欧米の病院よりはもちろん安いですし、シンガポールでもいわゆる高級病院よりは安いというレンジですね。タイやマレーシアではもう少し安くなるかもしれませんが、医療ツーリズムとしてはそこまで高いわけではありません。でも、先ほどの通訳費用も含めて、価格の見せ方の問題で高いと感じさせてしまっている部分もあると思いますので、「全部含めてこの金額です。これだけ払えば、日本の優れた医療を快適にワンストップで受けられます。」という見せ方と体制づくりが必要だと思っています。

K:同じ金額でも、治療費以外に色々余計にかかる、という見え方と、これだけ払えばあとはなにも心配する必要がない、という見え方では感じ方がかなり違いますね。

N:そうです。そして、実際のコストを下げるというところで言えば、例えば通訳がずっと貼り付くと高額になりますから、重要な部分以外は、電話通訳やタブレット端末を使った問診票とか、そういうものを活用して時間的・金銭的負担を少なくすることもできます。医療通訳に関しては、専門用語も多く、命に関わることなので、通訳業界の方も、誤訳による医療過誤を過度に警戒して萎縮していることが多いんですが、実際には契約の同意書も書いてもらいますし、日本人と比べて事故数が多いかと言えば、そうでもないんです。しかも、万が一事故が起きたとしても、国内患者と同様に、保険に入っていれば、基本的にはその中できちんと対応できる問題です。

K:色々と工夫のしようはあるということですね。

N;はい。医療通訳については、JIGHさんもmedi-Phone(メディフォン)という電話通訳システムを運営されていますよね。そういった民間サービスへのアウトソースや連携を検討したり、価格の見せ方を工夫したり、プロモーションの仕方を模索したりなどを行っているところです。今年度の事業の中でも、成功モデルをつくっていきたいと思っています。広く薄く日本の医療を受けにきてくださいと訴求するのは難しいと思いますので、まず狭く深くでも良いので、成功モデルをつくっていきたいです。

K:なるほど。私は病院でもメニューというか選択肢を増やすことも必要だと思っているんです。以前、タイに住んでいたときに病院に行ったんですが、病院では、まず言語でタイ語・英語・日本語と選べて、例えば英語を選んだら、その次にタイ人医師と欧米人医師を選べて、それぞれ料金が違います。日本語が高かったので、私は英語を選んだんですが、万が一、英語の診療でなにかが起こったとしても、それは自分で選択したから自己責任というわけですね。そういった形でメニューがたくさんあれば、メニューをどう選ぶのは、金額との質とのバランスをみた本人の決断ですし、同意書も保険もあるので、本人が選んだメニューでなにかあっても、それは自己責任であるということは納得されやすいと思います。

N:そうですね。選択肢を増やすという意味では、必ずしも言語だけのことではないと思いますし、それ以外のところでも工夫の余地はあるはずなんです。現状はあまり海外患者受け入れの経験のある病院が少ないこともあって、一病院の中で試行錯誤をしていることもあると思うので、実績を有するいくつかの病院と議論をしながら、横断的な課題を整理して全体で考え、成功事例があれば横展開し、少しずつ解決していくことがいくような形にできればと思います。

K:ありがとうございます。それでは最後になりますが、那須さんは今まで経済産業省でエネルギーやIT、環境など色々な産業をご担当されてきたと思いますが、そのご経験を踏まえて、医療産業の面白さ、遣り甲斐は何でしょうか。

N:やはり他の産業にはない圧倒的な伸びしろですね。日本ではほとんど未開拓分野と言っても良いかもしれません。エネルギーとか環境とか他の産業は、新しいと言ってもある程度産業としては成熟しているんですね。でも、医療や介護・教育・農業など、これまで公的制度で運用されってきた分野は、産業としてはほぼ未開拓の領域がかなりあるように思います。ですから、民間の様々な技術や知恵と組み合わせることで、新しい市場が拡がったり、これまで提供されてこなかった新しいサービスが提供されるなど、世の中からみてわくわくするような面白いことが起こる可能性がとても高いと思います。

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経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課
課長補佐 那須良氏

K:ポテンシャルが大きいと。

N:はい。あとは、他の産業で海外展開を考える場合には、どうしてもすぐに知的財産とかそういう問題が起きてくるんですが、医師の医療技術に限って言えば、知財の問題はそれほど厳格ではなく、医師もむしろどんどん教えて使ってもらいたいというスタンスが一般的なので、海外展開がやりやすいですね。やればやるほど現地の患者を助けることができるし、産業としても潤うので、日本の国益という観点から見ても、非常に有益だと思います。

K:なるほど。私はずっと保健医療の領域で働いてきたので、産業としての医療のポテンシャルの高さという視点は、とても新鮮です。ODAや開発援助の視点で保健分野を見ていると、ODA予算は過去20年近く右肩下がりという中で、3年とか5年のスパンでの援助では限界を感じていました。でも、医療の産業としての伸びしろの大きさと、医療を通じた国際貢献とはとても相性が良いと感じています。

N:これまで、医療分野で民間がやる社会貢献といえば、製薬会社のチャリティーとしての、ワクチンや薬の寄付が主でしたが、これはなかなか継続的に実施することが難しい。でも現地で、医師と協力して民間企業が事業として持続的なサービスを提供できれば、これが新しい民間主導の国際貢献の形になると思うんです。エネルギーでいえば、省エネの部分で日本企業がやってきたような形ですね。

K:社会の発展をビジネスで支えるということですね。先日、学会で学生さん向けに講義をしたんですが、そのとき、一人の学生さんから「開発援助とビジネスというは180度違うことではないんですか。開発援助をやってきた人がビジネスをやるモチベーションはなんですか」という質問を受けたんですね。それを聞いて、未だに開発援助を目指す若者にとっての対途上国・新興国の向き合い方が、「日本が上、新興国が下」で、「援助してあげている」という関係で捉えられているんだと気付かされました。そのとき私は「現地のニーズを満たす、持続可能なビジネスを展開することが真の国際貢献だし、それが、日本のためにもなる」という回答をしたんですが、今後、成功事例がたくさんでてくることで、そういう若い人たちの意識も変わってくるのかなと思いますね。

N:そうですね。ビジネスと国際貢献は、どちらか一方ではなく、両立させることも十分にできるので、うまく使い分けて説明をしていくことも重要だと思いますね。ビジネスと国際貢献は、0か1ではないですし、自分たちにとっても相手にとってもWIN-WINでないと長続きしないので、そういう関係を築いていくために、ビジネスの観点から何ができるのかを考えていくことが重要だと思います。医療の領域においては、国際協力という観点からこれまでODAを通じた医療協力を実施してきた外務省との連携も最近多くなってきていますよ。ただODAによる国際貢献という側面だけでなく、どうせなら、できるだけ日本の医療の海外進出とうまく連携させていけないか、ということを議論することが多くなってきましたね。

K:それは素晴らしいですね。これまでODAの円借款でインドネシアとかベトナムにたくさん病院建ててきていますから「建てました、良かったね」ではなく、そこの1フロアとか1部屋に展開させてもらうとか、戦略的に組み合わせていくことはできますね。

N:そうですね。

K:そういう意味で、医療の国際化は、経済産業省や外務省だけでなく、厚生労働省、観光庁、あと、言語という意味では、中長期的には文科省など関わってくる分野ですし、良い成功事例がでれば、面的に拡がりが生まれるので、展望が描きやすく、まさに「国富の拡大」に大きく寄与できる分野だと思います。那須さんの、引き続きのご活躍を期待しております。

N;ありがとうございます。金森さんにもさらにご活躍頂いて、ぜひ日本の医療が海外で活躍するような素晴らしい成功事例をつくっていただきたいです。

K:頑張ります(笑)。それでは、本日はありがとうございました。