政策提言/リサーチ Policy&Reserch

2014.04.24

ワクチンに関するレポート:
「世界予防接種週間(4/24-30)」に向けて —世界と日本のワクチンに係る現状と課題—

「世界予防接種週間(4/24-30)」に向けて
—世界と日本のワクチンに係る現状と課題—

2014 年 4 月 24 日
一般社団法人ジェイ・アイ・ジー・エイチ(JIGH)

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・予防接種(以下、ワクチン接種)は、健康を維持するために最も費用対効果の高い施策の一つとされている。

・ワクチン接種は、ジフテリア、麻疹、百日咳、肺炎、ポリオ、ロタウイルス性下痢、風疹、破傷風などの子供に多い疾患を予防できるのみならず、中高生や成人に多いインフルエンザ、髄膜炎、肝炎や子宮頸癌などの疾患をも予防し、重傷化や障害発生を防ぐことも可能である。

・世界レベルでのワクチン接種率は徐々に上がっている。

・しかしながら、未だ 2,000 万人以上の世界の子供たちが必要最低限のワクチン接種を受けることができないでいる。

・この主な原因は、ワクチン供給の不足、保健医療人材の不足に加えて政治的・経済的理由などが挙げられる。一方で、日本でも世界基準とされているワクチンが定期検診として無料で受けられないなど課題が残されている。

・社会全体で免疫水準を向上して維持するためには、一人ひとりの知識レベル(特に母親)を向上させることが極めて重要である。

 

ワクチン接種は、世界中の人々が健康を維持するために最も有効なツール

ワクチン接種は、健康を維持するための最も費用対効果の高い施策の一つとされており、毎年世界中で 200-300 万人もの人々の命を救っている。そのため、近年では、ワクチン接種は人権の一つであるという認識が広まり、またワクチン接種活動は各国政府やコミュニティー、そして個人の責任とされている。ワクチン接種が重要視されている理由は主に以下の 5 点が挙げられる。

(1)現在、世界ではワクチンの開発が進んだことから 25 の VPD から子供たちの命を守ることができる。
(2)ワクチン接種は安全で効果的である。副作用があるワクチンも存在するが、重症となる症例は稀で、接種により得られる健康増進効果の方が高い。
(3)ワクチン接種率が増えることで、コミュニティー内のウイルス数が抑えられ疾患の拡大することを防ぐことができる。結果、ワクチン接種を受けていない人を感染から守ることに繋がる。
(4)ワクチン接種をしっかりと行うことで、子供たちを VPD から守ることができることを通じて、家族に時間的余裕が生まれると同時に経済的節約に繋がる。
(5)ワクチン接種を広めることで、ポリオなど子供たちの未来を奪う VPD を根絶することも可能である。結果的に、次の世代の子供たちの命も守ることになる。

上記を踏まえると、ワクチン接種を広めることは、VPD からの予防のみならず、各国にとって、そして世界の未来にとって重要な課題である。

 

世界予防接種週間 (World Immunization Week)とは?

 

2014 年のテーマは、”Are you up-to-date?”
「あなたはワクチン流行にのっていますか?」

世界予防接種週間とは、2011 年に世界保健機関(World Health Organization: WHO)が制定したワクチンの普及を促進する週間で、ワクチン接種キャンペーン、啓発活動、情報共有の強化を通じて、(1)ワクチン接種に関する知識レベルの向上、(2)個人や家族のワクチン接種履歴のチェック、そして(3)身近に気軽にワクチン接種ができる環境を整えることを目的としている。1

 

(1) 知ろう!

 

know-3

 

(2) 調べよう!

check-2

 

(3) 守ろう!

protect-2

 

1.世界のワクチン接種の現状

・ワクチン接種を受けている子どもは増え続けている。
・2000-2010 年の間、5 歳未満児のワクチン接種が普及し、約 200 万人もの子供たちの命が守ることができた。
・VPD の一つである麻疹の世界における死亡率は、2000-2012 年にかけてワクチン接種の普及により 78%減少した2。2012 年の段階で、194 の WHO 加盟国のうち 131 ヶ国(68%)における麻疹ワクチン接種率は 90%以上まで増えている3

・ポリオの発生率はワクチン接種の普及によって 99.8%抑えられており、過去 25 年間で約 800 万人がポリオ麻痺から解放された。結果、今、世界はポリオ根絶まであと一歩の段階まで迫っており、もしポリオ根絶が現実のものとなれば、2035 年までに約 500 億米ドル(約 4 兆円)の出費を途上国だけでも抑えることができる4

しかしながら、必要最低限のワクチン接種が受けられない人々が世界には依然多くいることから、世界では、VPD は未だ主な死亡原因の一つとなっている。2012 年の段階で 5人に 1 人の割合での子供たちに未だワクチンを届けることができず、必要最低限のワクチン接種を受けられていない一歳未満児は 2,260 万人も存在すると推定されている。また、この多くがインド、インドネシア、ナイジェリアの 3 カ国に住んでいる子供たちとされている。

 

2.日本のワクチン接種の現状

日本では、毎年 3 月 1-7 日を「子ども予防接種週間」としている。各地の医療機関、予防接種センターなどが協力をし、入園、入学前の子どもの保護者に対して、予防接種の広報・啓発活動を行っている。

このような取組みにも関わらず、国内における VPD による死亡者、健康障害者は欧米に比べると比較的高い。この主な原因は、課題が見受けられる現行の予防接種制度にあると考えられる。具体的には、1989-1993 年の間に三種混合生ワクチンの副作用により無菌性髄膜炎が多発したことをきっかけに、1994 年に集団義務接種が廃止され、予防接種が個別接種主体に変更になった。未だに、B 型肝炎、おたふくかぜ、水疱瘡など多くの先進国で無料定期接種が可能なワクチンは、日本ではまだ普及されていない。また、同時接種や混合ワクチンの普及も遅れている。ワクチンの安全性に対する日本の考え方は欧米に比べて消極的であり、例えば 1 日でも接種時期が遅れると定期接種として認められないなど、接種にあたり細かな決まりが多く存在する。

 

3.ワクチン接種を広める世界の動き

WHO は、世界のワクチン接種率のさらなる向上を目指し、2012 年 5 月に開催された世界保健総会(World Health Assembly: WHA)にて、世界的ワクチン実施計画(Global Vaccine Action Plan: GVAP)を発表した。GVAP とは、WHA で可決された戦略的プログラムであり、世界レベルでのワクチン接種率の向上と、全ての人々がワクチン接種を受けられる環境を整備するためのロードマップである。2020 年を目処に、ワクチン接種率を国レベルでは 90%以上に、地域レベルでは 80%以上まで引き上げることを目標としている。なお、GAVP の最重要目標はポリオ根絶であるが、これと同時に、デング熱やマラリアなど新たなワクチンの開発にも乗り出している。

 

4.今後の課題

国際社会はこれまで、ワクチン接種について多くの進展を遂げてきた。しかしながら、今日までの功績の陰には、依然解決しなければならない様々な課題が残されている。例えば、世界レベルでは、地域、国レベルの不平等が問題視されている。特に、先進国に比べ、途上国の人々にワクチンが届くまで時間がかかる。2010 年の段階で、肺炎球菌ワクチンが国レベルの予防接種プログラムに取り入れられていなかった先進国は13%であったのに対し、途上国では 98%にも及んだ。主な原因としては、限られた資源、他の優先度の高い保健医療課題との調整、保健医療システムのマネージメントの未整備、 モニタリングとスーパビジョンの未整備等が挙げられる。

一方で、日本における予防接種制度については、B 型肝炎やおたふくかぜ、水疱瘡など世界標準とされているワクチンの無料化や定期検診化が一部未施行のままであるほか、ワクチンの安全性、副作用に関する適切な情報提供体制が未整備であったり、国民と医療従事者を対象とした広報・教育活動が未実施党の課題が挙げられる。

 

5.今後の期待

世界では、これまでに新たなワクチンの開発が進んだことによって 25 の VPD から子供たちの命を守ることができるようになった。近年では、5 歳未満児死亡の多くを占める肺炎や下痢を予防するための肺炎球菌ワクチンやロタウイルス、また子宮頸癌の予防に有効とされるヒト乳頭腫ウイルスのワクチンも普及され始めている。さらに、中高生や成人の死亡率が高いインフルエンザ、髄膜炎、そして癌なども予防することができるようになった。

既存のワクチンをより多くの人びとに届ける試みも始まっている。2010 年の段階で、193 の国連加盟国のうち、154 国がワクチン接種用の予算を確保しており、そのうち 147カ国が継続的な全国レベルのワクチン接種プログラムへの発展に向けて動き出している。さらに、近年では、2018 年までにポリオ根絶を目指すなど、ワクチンを用いた感染症根絶への期待も高い。

 

1. 出典:WHO (http://www.who.int/campaigns/immunization-week/2014/en/)

2. 出典:WHO(http://www.who.int/immunization/en/

3. 出典:CDC (http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6243a4.htm)

4. 支出官レート:1米ドル=82 円(出典:財務省 https://www.mof.go.jp/about_mof/act/kokuji_tsuutatsu/kokuji/KO-20130206-0029-14.htm) 

 

 

(了)